お問合せ

COLUMNコラム

Coccole C336 スツール デザインストーリー|サステナブルな「圧密材」と家具のこれから

Coccoleの新作スツール「C336」では単にシンプルでおしゃれなスツールというだけでなく、見た目だけではわからない次世代の耐久性を備えているのだそうです。

このスツールではCoccoleのブランドコンセプトを語る上で欠かせない「サステナビリティ」というキーワードにあわせて、国産の杉材を使った新しい素材が採用されています。

その素材が選ばれた理由やC336のデザインの成り立ち・見どころなどについて、プロダクトデザイナー  佐藤さんに語ってもらいました。

Coccoleのブランドコンセプトを深化させるスツールにしたかった

C336はCoccoleシリーズの新作スツールとしてデザインしました。

Coccoleのブランドコンセプトは「都市と自然をつなぐ場所」、つまり都市と自然、そしてそこに生きる人々が寄り添うように暮らすための家具という考え方が根本にあります。

そこでC336に使用する素材はただ自然を感じさせるというだけでなく、その素材が生み出され、加工され、そして使用されるというストーリーに注目し、「圧密材」という新しい素材を選びました。

圧密材の大きなメリットや将来性については、ぱっと見ではわからないかもしれません。C336のデザイン性や強度へのこだわりにあわせて、この素材を選んだ深い意味についてもお伝えしたいと思います。

C336の仕様を見る

C336のデザイン性 |こだわったのは素材そのものの質感

まずC336のデザインの根幹にあるのはシンプルさの追求です。でも単にムダをなくすだけでは魅力的なプロダクトになりません。

シンプルながら人を惹きつけ、「こんなスツールをお店に置きたい」とか「あの席に座りたい」と思ってもらうデザインにするため、特にこだわったポイントのひとつは素材本来の質感です。

座面に選んだ圧密材は杉を加工したものですが、表面には樹木の本来の木目がそのまま表れます。このように安らぎやぬくもりを感じる美しい木目は天然木でしか味わえません。

さらにフレーム部分にはスチールを採用していますが、塗装方法にもこだわっています。この製品では、独特のマットな質感を生み出す「黒皮風塗装」を採用しています。「黒皮」というのは金属が酸化するときに発生する皮膜でいわば錆の一種なんですが、ともすれば無表情になりがちな金属に独特の表情が生まれる要素にもなるんです。

もちろんこの塗装は「黒皮“風”」なので実際にスチールが酸化しているわけではありませんが、黒皮のような味わい深いテクスチャー感と、インダストリアルな雰囲気を表現しています。ぜひC336に施されたこのこだわりの塗装を間近で見て触れて、楽しんでいただきたいですね。

C336の仕様を見る

C336の強度 |シンプルさを損なわず堅牢に

C336はコントラクト空間での使用を想定しています。それでレストランやバー、ラウンジ、カフェなどで、体格も体重も違う不特定多数の使用者がガンガン使って、長期にわたりさまざまな方向からの負荷がかかっても問題ないような強度にデザインしています。

たとえばこのスツールの場合、通常は視界に入りませんが座面の裏に“田の字”状のスチールの補強を仕込んであります。

▼“田の字”状のスチールの補強

頑丈さを追求すると無骨になってしまったり、シンプルさの美しいバランスを壊してしまったりすることもありますが、そうならないよう注意深く配慮しています。C336 がシャープなフォルムでありながらコントラクトユースに十分耐えうる堅牢さを備えているのはそのためです。

また、木製の座面も通常の杉材よりかなり頑丈な素材を採用しています。その頑丈さを生み出しているのが、特殊な方法で加工された「圧密材」なんです。

C336の仕様を見る

C336に採用された圧密材とは|家具の未来が感じられる新素材 

圧密材はC336の最大の特徴でもあり、家具としての新たな試みともなったと感じています。

圧密材というのは木材に熱処理と圧縮を同時に加える「プレス圧縮強化製法」で加工されています。熱処理と加圧を同時に行うこの製法では、木材の内部組織を破壊することなく高密度で強靭な素材へと加工できるんです。

この製法では杉材の厚さは約50%にまで圧縮されます。杉の気乾比重(木材の重さを表す数値で、強度の指標にもなる)は約0.4程度なので、体積が半分になれば気乾比重は2倍の約0.8、つまりビーチ材やオーク材に匹敵するか、もしくはそれ以上の強さになると考えられます。

▼圧密加工前と加工後の比較

杉本来の木目の美しさと新たな強度の両立、これが圧密材を採用した理由です。

さらに、私たちがとても大切にしているサステナビリティの観点からも、圧密材の可能性には大いに期待しています。

日本の山林に大量に植林されている杉の活用はあまり進んでいません。「国産杉」というとブランド力がありそうに感じられるかもしれませんが、木造建築用の材木としても、供給の安定性やコストパフォーマンスの良さから外材が好まれています。

サステナブルな森林管理のためには、①木を育てる、②伐採する、③再び苗木を植える、を適切なスパンで繰り返すというサイクルがとても重要なのですが、このサイクルが滞っているというのが日本の林業の現状です。このままでは国産材の安定的な供給がさらに困難になっていくかもしれません。圧密材にはそんな不透明な林業の先行きを打開してくれる可能性を感じています。

杉の穏やかな木目には独特の魅力があります。日本の文化や生活に溶け込んでいる木材であり、多くの人にとって親しみが感じられる素材だと思います。ただし杉材は柔らかくて加工しやすいというメリットの反面、傷がつきやすいというデメリットもあります。

たとえば杉古材を大々的に採用したCoccoleの「the old wood」シリーズのように、使い込まれた木材の傷や色褪せ、鋸目跡(のこめあと)などは、上手に使えば個性的でデザイン性の高い家具が出来上がります。

ただし新品の家具としては傷や圧痕・打痕がつきやすいと、活用の幅は制限されてしまうというのが現実でした。

圧密材なら杉材固有の美しい木目や木肌を維持しながら弱点を大幅に改善できます。さらに言うと圧密材では化学物質も使用しませんし、寸法安定性まで向上するので、家具のデザインの幅はかなり広がっていくと思います。さらに家具以外のさまざまな分野でも杉材の活用の幅が大きく広がっていくのではと期待しています。

日本の貴重な一次産業である林業は元気がない状況が続いていますから、時代のニーズに応えるこのような加工木材の生産が、これからの林業を活気づける起爆剤になると嬉しいですね。C336のプロダクトデザインにはそのような願いも込められているんです。

C336の仕様を見る

C336でのチャレンジをさらに前進させるために考えていること

2021年以降のウッドショックで輸入木材の値段は高騰しているので、家具製造業全体としてはその影響をかなり受けているのではないでしょうか。

C336ではそもそも国産材の活用を前提に商品開発をしていたので、ウッドショックの混乱にほとんど影響されることなくプロジェクトを進めることができました。

Coccoleブランドとして、また木材を取り扱う家具メーカーとして、国産材を活用することは森林の健全な育成や資源の保全に貢献するために大切にしたいスタンスです。

とはいっても国産材の供給体制の安定性にはまだまだ課題が残っているとも感じています。国産材でも高品質な材木の安定的な供給ができなければ急激な価格高騰に見舞われる可能性もあるので、現状を注意深く見守りつつ、デザイナーとしてできる限りの提案や開発をしていきたいですね。

圧密材の製造を行ってくれた後藤木材株式会社とのお取引は今回が初めてでした。圧密材を使ったコントラクト家具の開発・製造は新しい試みでもあったので、仕様や加工法などについて手探りで最適解を探していく工程には独特の難しさがありました。

試行錯誤を繰り返し、現在ではC336は安定的な生産と在庫確保が可能な状態になっています。

C336という形で「圧密材×コントラクト家具」の一つの答えを出せたので、これからは今回のチャレンジをさらに進めて、優秀なデザインで高品質なコントラクト家具のデザインをさらに前進させていきたいです。

デザイナー目線の、C336の活用法やコーディネートのコツ

C336はカラーバリエーションを設けず、木目で魅せるCL一色としました。これは素材自体の美しさへの確信の表れでもあります。杉材がもつナチュラルで味わい深い色合いや濃淡のゆらぎなど、天然素材でしか醸し出せない美しさをあらゆるシーンで、ひとりでも多くの人にぜひ味わっていただきたいです。

スツールはとても使い勝手の良い椅子なので、十分な席数を確保したいカフェテリアや、企業としてサステナビリティに取り組む一環で木質化を進めるオフィスなど、C336はいろんなシーンで活躍すると思います。

C336と同仕様のハイスツール「C336S」と組み合わせれば、統一感のある空間を演出できると思います。ぜひ試していただきたいコーディネートです。

C336の仕様を見る

C336Sの仕様を見る

最終更新
2024.09.12

取扱家具一覧